「派遣社員なんだから、退職金なんてないでしょ?」
10年間勤めた会社を退職した日、夫から渡された封筒を見て、私は言葉を失った。
私は今年で52歳。
結婚してからずっと、家計を支えるために派遣社員として働いてきた。
正社員のような安定した待遇はない。
ボーナスも少なく、もちろん退職金もない。
契約更新のたびに不安になりながらも、気づけば同じ会社で10年間働いていた。
朝は誰よりも早く出勤し、忙しい日は昼休みも短くして仕事をこなした。
それでも、正社員の同僚からは何気なく言われることがあった。
「派遣さんって、契約が終わればすぐ辞められるから気楽でいいよね」
笑って受け流していたけれど、本当は何度も傷ついた。
仕事の責任は同じなのに、待遇には差がある。
そんな現実を何度も感じていた。
そして、10年目の契約満了の日。
最後の挨拶を終え、私物をまとめて会社を出た。
帰宅すると、夫がいつもより早く帰ってきていた。
「10年間、お疲れさま」
そう言って、夫はテーブルの上に小さな封筒を置いた。
「何これ?」
「退職金。受け取って」
私は思わず笑ってしまった。
「何言ってるの。派遣社員に退職金なんてないよ」
すると夫は、少し照れくさそうに言った。
「だから俺から渡すんだよ」
封筒を開けると、中には銀行の払戻明細と現金が入っていた。
金額を確認した瞬間、私は固まった。
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