「お願いですから、17番の鍵を返してください!」
銭湯の男湯で見つけた1枚の張り紙に、思わず足が止まった。
古びたロッカーの扉に、手書きの紙が貼られていた。
『17番のキー 持ち帰られた方、戻しておいて下さい。
』
「えっ、ロッカーの鍵を持って帰った人がいるの?」
最初は、うっかり持ち帰ってしまっただけなのかと思った。
ところが、店の人の話を聞いて驚いた。
「鍵1本くらい、予備があるんじゃないですか?」
「古いロッカーなので、簡単に交換できないんですよ」
「じゃあ、新しい鍵を作れば……」
「それにも費用と時間がかかるんです」
よく見ると、17番の扉には鍵がなく、手書きのお願いだけが残されていた。
「そんなに困っているんですか?」
「このままだと、そのロッカーを使えないんです」
さらに、店主の訴えには切実な言葉が続いていた。
『これをやられますと、本当に営業出来なくなってしまいます。』
たった1本の鍵。
でも、古い銭湯にとっては、決して小さな問題ではないらしい。
私はもう1度、17番の扉を見つめた。
持ち帰った人は、この張り紙を見たらどう思うのだろうか。(続)