電車で隣に座っていたおじさんの手が、少しずつ私の太ももに近づいてきた。
最初は、ただの偶然だと思っていた。
でも、小指と薬指の先が肌に触れるような感覚があった瞬間、背筋がぞっとした。
「……えっ、今、触った?」
私は思わず自分の太ももを見た。
隣の男性は、相変わらずうつむいて座っている。
まるで眠っているかのようだった。
これは、だいぶ前に電車に乗ったときの出来事だ。
今になっても、あのときの気持ち悪さを思い出すことがある。
正直、これが痴漢だったのかどうか、自分では判断できない。
だから、当時は誰にも相談できなかった。
「私の気にしすぎだったらどうしよう」
そんなふうに考えてしまったからだ。
その日、私はいつものように電車に乗っていた。
座席に座り、目的地に着くまで静かに過ごすつもりだった。
しばらくすると、隣に中年の男性が座った。
男性は乗車してすぐ、頭を下げるような姿勢になった。
私は最初、眠いのだろうと思った。
電車でうとうとしている人は珍しくない。
仕事で疲れているのかもしれないし、ただ眠かっただけかもしれない。
だから、その時点では特に気にしていなかった。
ところが、しばらくして妙なことに気づいた。
男性の頭の動きがおかしい。
普通に居眠りをしている人なら、頭がゆっくり下がって、はっと目を覚まして戻すような動きをすることがある。
でも、隣の男性は、急に顔を上げたり、また深くうつむいたりしていた。
しかも、その動きが何度も繰り返される。
「……何してるんだろう?」
私は少し不思議に思った。
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